2025 年5月7日
第 一 三 共 株 式 会 社
トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd/DS-8201)の HER2陽性の早期乳がんにおける術前療法を対象とした第3相臨床試験の結果について
第一三共株式会社(本社:東京都中央区、以下「当社」)は、再発リスクの高いHER2陽性の早期乳がんにおける術前療法を対象とした、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd/DS-8201、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)*1、以下「本剤」)のグローバル第3相臨床試験(DESTINY-Breast11)の主要な解析の結果概要について、以下のとおりお知らせいたします。
本試験は、再発リスクの高いHER2陽性の早期乳がん患者927名を対象に、本剤単剤投与または本剤投与後にパクリタキセル、トラスツズマブ、ペルツズマブの併用療法(以下「THP療法」)を行う術前療法における有効性と安全性を、ドキソルビシンとシクロホスファミド投与後にTHP療法を行う現在の標準治療(以下「ddAC-THP療法」)と比較して評価するグローバル第3相臨床試験です。
本試験の主要評価項目である病理学的完全奏効率*2において、本剤投与後にTHP療法を行った術前療法は、ddAC-THP療法に対し、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示しました。重要な副次評価項目である無イベント生存期間*3については、ddAC-THP療法に対し初期の改善傾向が認められたものの、本解析時点において十分なフォローアップ期間に達していなかったため、引き続き評価が継続されます。
安全性について、本剤投与後にTHP療法を行った術前療法は、ddAC-THP療法に対し良好な安全性プロファイルを示しました。また、新たな懸念は認められず、本剤およびTHP療法の既知の安全性と同様の傾向でした。間質性肺疾患(ILD)については、それぞれの群で同程度の発現割合でした。なお、本剤単剤投与群の患者登録は独立データモニタリング委員会による中間評価に基づき、途中で終了しました。
本試験結果の詳細は、今後、学会にて公表し、各国・地域の規制当局に共有する予定です。
当社は、HER2陽性の早期乳がん治療に新たな選択肢を提供できるよう、本試験および術前療法後の高リスクHER2陽性乳がんにおける術後療法を対象としたDESTINY-Breast05試験を通じて、本剤の開発を加速させてまいります。
以上
*1 抗体薬物複合体(ADC)とは、抗体と薬物(低分子化合物)を適切なリンカーを介して結合させた薬剤で、がん細胞に発現している標的因子に結合する抗体を介して薬物をがん細胞へ直接届けることで、薬物の全身曝露を抑えつつがん細胞への攻撃力を高めています。
*2 病理学的完全奏効率とは、手術により摘出した組織において病理学的にがん細胞が完全に消失した割合のことです。
*3 無イベント生存期間とは、無作為日から病勢進行や再発と判断された時点、またはあらゆる原因による死亡日までの期間です。
HER2陽性の早期乳がんについて
乳がんは、がんによる死亡の主な原因の1つであり、2022年には全世界で新たに200万人以上が診断され、約67万人が亡くなったとの報告があります。
早期乳がん患者のおよそ3人に1人は「高リスク」とみなされ、再発の可能性が高く予後が不良と言われています。そのため、早期乳がんにおいて病理学的完全奏効を達成することは、患者の長期的な予後の改善に関連すると考えられています。
HER2は、乳がんを含む多くのがん細胞表面に発現するタンパク質であり、乳がんの5人に1人がHER2陽性と言われています。HER2陽性の早期乳がんに対する現在の術前療法は、多剤併用療法が世界的な標準治療として用いられていますが、病理学的完全奏効を達成する患者は約半数との報告があり、新たな治療の選択肢が必要とされています。
第一三共のADCパイプラインについて
第一三共のADCパイプラインは、第一三共独自の二つのADC技術プラットフォームから創製された、臨床開発段階にある7つのADCから構成されています。
一つ目のADCプラットフォームは、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、複数のトポイソメラーゼⅠ阻害剤(DXd)をリンカーを介して結合させ、がん細胞の内部へDXdを届けるDXd ADC技術で、現在6つのADCがあります。トラスツズマブ デルクステカン(エンハーツ(R)、抗HER2 ADC)およびダトポタマブ デルクステカン(ダトロウェイ(R)、抗TROP2 ADC)は、全世界(当社が独占的権利を有する日本は除く)においてアストラゼネカと共同で開発および商業化を進めています。パトリツマブ デルクステカン(HER3DXd/U3-1402、抗HER3 ADC)、イフィナタマブ デルクステカン(I-DXd/DS-7300、抗B7-H3 ADC)およびDS-6000(R-DXd、抗CDH6 ADC)は、全世界(当社が独占的権利を有する日本は除く)においてMerck & Co., Inc., Rahway, NJ, USAと共同で開発および商業化を進めています。DS-3939(抗TA-MUC1 ADC)は当社が単独で開発を進めています。
二つ目のADCプラットフォームは、がん細胞表面に発現する特定の抗原を標的とした抗体と、改変されたピロロベンゾジアゼピン(PBD)を結合させ、がん細胞の内部へ改変されたPBDを届けるADC技術です。
DS-9606(抗CLDN6 ADC)は、このプラットフォームを活用した最初のADCです。
なお、パトリツマブ デルクステカン、イフィナタマブ デルクステカン、DS-6000、DS-3939およびDS-9606は、現在開発中の薬剤です。安全性および有効性はまだ確立されておらず、各国の規制当局による薬事承認は受けていません。