毛髪・美容・健康・医療のウェルネス事業をグローバル展開する株式会社アデランス(本社:東京都品川区、代表取締役社長 鈴木 洋昌)は、男性型脱毛症(AGA)の頭頂部の毛幹(肌から露出している毛髪の部分)において、毛髪関連分子WNTLESS(WLS)※2やWNT3※3が有意に減少していることを発見しました。培養細胞を用いて、AGAの主要な原因物質であるジヒドロテストステロン(DHT)を添加したところ、やはり、WLSやWNT※3類の遺伝子発現が減少していました。今回の成果の一部は、12月3日(水)~5日(金)に横浜国際平和会議場(神奈川県横浜市)で開催された第48回日本分子生物学会年会にて発表いたしました。
研究背景
AGAは生え際や頭頂部の脱毛を特徴とする進行性の脱毛症です。50歳以上男性の50%以上、閉経後女性の15%に影響しているとの報告もあります。自己肯定感やQOLの低下につながることもあり、社会的な影響も大きいと考えられます。AGAの原因として考えられているのが、男性ホルモンの一種DHTです。DHTが毛髪の成長を阻害する結果、その成長期が短縮され、十分に成長しないまま抜け落ちてAGAが進行すると考えられています。近年、生体試料由来タンパク質を網羅的に捉えるプロテオーム解析の精度は急速に発展を遂げています。毛髪には毛母細胞から新たに作られた時のタンパク質を始めとする代謝物が長期にわたり固定されているため、これらのタンパク質の組成を同定できれば、AGAで実際にどのような変化が起きているのか知ることができます。そこで本研究では、DHTの毛幹への影響を始め、AGAの新たな発症機序を明らかにするため、AGA患者と非脱毛症の毛幹のプロテオーム解析を行いました。
毛幹プロテオーム解析
AGAの被験者5名および非脱毛症の男性5名を対象に、頭頂部と後頭部から毛幹を採取し、プロテオーム解析を実施しました。解析の結果、毛幹から4,383種類ものタンパク質を検出することができました。この取得データを用いて、AGAと非脱毛症を統計学的に比較し、AGAで有意に変化しているタンパク質として286種類まで絞り込みました。既存の文献を参考にして、286種類の中からAGAの発症に関連すると考えられるタンパク質としてWLSとWNT3を同定しました。
脱毛症の毛幹でWLSやWNT3の有意な減少を確認
AGAの毛幹では、非脱毛症よりWLSやWNT3が有意に少ないことを確認しました(図1)。特に薄毛が進行している頭頂部でより減少していました。
DHTを添加した培養細胞でもWLSやWNT類の有意な減少を確認
詳細な分子機序を解明するために、ヒト毛乳頭細胞(DPCs)※4及びヒト表皮角化細胞(hEK)※5を用いて、DHT添加時のWLSやWNT類の遺伝子変化量をリアルタイムPCR法で確認しました(図2、図3)。DPCsではWLS、hEKではWLSに加えてWNT5a※3、WNT3の有意な減少を確認しました。DKK1やIL-6は、DPCsがDHTに反応する際のポジティブコントロールとして使用いたしました。どちらもDHTにより増加しました。

(図2) DPCsにおけるWLSやWNT類の遺伝子発現量

(図3) hEKにおけるWLSやWNT類の発現量
まとめ
毛幹プロテオームおよび培養細胞を用いた研究により、DPCsのみならず様々な細胞がDHTの影響を受けていることが示唆されました(図4)。今後は、遺伝子レベルでの変化に加えて、各細胞にDHTを添加した際の培養上清液中WNT分泌量で評価することで、WLS発現低下によるWNT分泌の効率低下を確認し、これらの変化によるAGAへの寄与を解明することを目指していきます。

※1プロテオーム(生体試料における全てのタンパク質)の構造や機能を解析すること
※2 WNTタンパク質分泌に不可欠な分子
※3 WNTシグナル伝達経路は発毛促進に関わる重要な経路
WNT3やWNT5aは、WNTファミリーとして19種類存在するうちの1つ
※4毛髪を形成する細胞
※5毛髪を形成する毛母細胞の代替となる細胞
担当研究員
株式会社アデランス 商品研究開発部
研究員 杉元 啓悟

株式会社アデランスは、「Everything for a smile(すべては笑顔のために)」をコーポレートスローガンに制定しています。海外を含むグループ会社共通の理念とし、グローバルウェルネスカンパニーとして、これからも社会に笑顔の輪を広げ、夢と感動を提供し続けていきます。