糖尿病のある方のBNPは「正常範囲内」でも腎機能低下と関連することを発見

2026/03/04  学校法人 順天堂 

― 心臓と腎臓のつながりを反映する“連続的リスク指標”としての可能性 ―

順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学の村越真紀 准教授、合田朋仁 教授らの研究グループは、広島赤十字・原爆病院内分泌・代謝内科の亀井 望 部長、札幌医科大学内科学講座循環病態内科学分野の古橋 眞人 教授らと共同で、糖尿病のある方を対象とした腎機能の自然経過を追跡した観察研究を実施しました。
その結果、心不全の血液マーカーとして知られるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)*¹が、従来の腎臓病マーカーである尿アルブミン(UACR)*²とは独立して、慢性腎臓病(CKD)進行と関連することを明らかにし、特に重要な点として、BNPが「正常範囲内(18.4 pg/mL以下)」であっても、値が低いほど腎機能低下リスクが連続的に低下することを示しました。
さらに、BNPとUACRを組み合わせることで、より精密な腎機能低下リスクの層別化が可能となることを示しました。
本研究成果は、心臓と腎臓の相互作用(心腎連関*³)という観点から、尿検査だけでなく血液検査によるBNPを活用することで、糖尿病のある方の腎機能低下のリスク評価をさらに高精度化できる可能性を示すものです。本論文はDiabetes Research and Clinical Practice誌オンライン版に2026年2月24日付で掲載されました。

本研究成果のポイント
糖尿病のある方において、BNPと尿アルブミンの研究登録日から5年後の腎予後予測能を直接比較
● BNPは尿アルブミンと独立してCKD進展と関連し、正常範囲内でも値が低いほど腎機能低下リスクが連続的に低下
● BNPは心不全マーカーにとどまらず、心臓と腎臓の密接な関係を映し出す指標として、新たなCKDリスク指標となる可能性

背景
糖尿病関連腎臓病(DKD)は透析導入の主要原因です。糖尿病のある方の腎機能が大きく低下する前に、将来の腎機能低下リスクの高い方を早期に見つけ、適切な治療を行うことが極めて重要です。
現在、腎予後予測にはUACRが推奨されています。しかし、尿検査施行の難しさや保険診療上の制約のため実臨床では必ずしも十分に測定されていないのが現状です。
一方、BNPは心不全の診療で広く用いられている血液検査マーカーです。近年、心臓と腎臓の相互作用(心腎連関)を反映する可能性が示唆されていますが、「正常範囲内」のBNPが腎機能低下と関連するかどうかは明らかではありませんでした。

内容
本研究では20歳以上で文書同意が得られた糖尿病のある636名を対象に、BNPと腎機能低下との関連を検討し、以下の知見を得ました。
1.BNPは尿検査マーカーと同等の腎機能低下予測能を有する
臨床因子のみのモデルにBNPを追加すると、CKD進展(ベースラインから30%のeGFR低下)の予測能が有意に改善しました。その改善度は、尿アルブミン(UACR)や尿蛋白(UPCR)追加した場合と概ね同等でした。
2.「正常範囲内」でもBNPは連続的なリスク指標である(図1)
スプライン解析の結果、BNPが基準値上限(18.4 pg/mL)以下であっても、値が低いほど腎機能低下リスクが段階的に低下することが明らかになりました。
これは、「異常か正常か」という二分法ではなく、BNPが“連続的なリスク指標”である可能性を示しています。
3.BNPとUACRの併用で高リスク群をより明確に識別できる(図2)
BNP高値かつUACR高値の群で、最も高いCKD進展の累積発症率を示しました。また、BNPとUACRの相関は弱く、異なる生物学的メカニズムを反映している可能性が示唆されました。

今後の展開
本研究は、BNPが従来の尿マーカーとは異なる生物学的軸から腎機能低下と関連する可能性を示しました。これにより、糖尿病のある方における早期リスク評価の精度向上や、心腎連関を踏まえた個別化医療の推進につながることが期待されます。また、SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬などの心腎保護薬導入の判断補助としても活用できる可能性があり、重症化予防を通じた医療費削減への貢献も見込まれます。



図1 BNPと腎機能低下リスクの関連(スプライン解析)
BNPは正常範囲内であっても、値が低いほど腎機能低下リスクが連続的に低下することが示された




図2 BNPとUACRの組み合わせによる腎機能低下の累積発症率
BNPおよびUACRの両方が高値の群で、腎機能低下の累積発症率が最も高いことが示された。

用語解説
*1 B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP): 心臓に負荷がかかったときに分泌されるホルモン。血液検査で測定され、主に心不全の診断や重症度の評価に用いられる代表的なバイオマーカーである。
*2 尿アルブミン(UACR): 尿中に含まれるタンパク質「アルブミン」の量を、尿中クレアチニンで補正した指標(urinary albumin-to-creatinine ratio)。慢性腎臓病(CKD)の早期発見や進行リスク評価に、国際的な診療ガイドラインで推奨されている腎障害マーカーである。
*3 心腎連関: 心臓と腎臓が互いに影響し合うという病態の考え方。心機能が低下すると腎機能に悪影響を及ぼし、逆に腎障害が進行すると心血管疾患のリスクを高まることが知られている。

研究者のコメント
BNPは確立した心不全マーカーですが、これまでの腎予後研究は主に「高値」の症例に焦点が当てられていました。本研究により、「正常範囲内」であっても腎予後と関連することが示されました。心臓と腎臓のつながりという視点から、より早期にハイリスクの方を同定できる可能性があります。本成果が、糖尿病関連腎臓病の重症化抑制につながることを期待しています。
(准教授 村越 真紀) 


原著論文 
本研究はDiabetes Research and Clinical Practice誌のオンライン版に2026年2月24日付で公開されました。
タイトル: Normal-range B-type natriuretic peptide is associated with chronic kidney disease progression independent of albuminuria in individuals with diabetes: an observational cohort study
タイトル(日本語訳): 正常高値域のBNPは、糖尿病のある方において尿アルブミンとは独立して慢性腎臓病の進行と関連するー観察コホート研究ー
著者: Maki Murakoshi1, Nozomu Kamei2,3, Marenao Tanaka4, Tatsuya Sato4,5, Masato Furuhashi4, Mitsunobu Kubota6, Michiyoshi Sanuki3, Yusuke Suzuki1, Tomohito Gohda1
著者(日本語表記): 村越真紀1)、亀井望2, 3)、田中希尚4)、佐藤達也4,5)、古橋眞人4)、久保田益亘6)、讃岐美智義3)、鈴木祐介1)、合田朋仁1)
著者所属: 1)順天堂大学医学部腎臓内科学講座、2)広島赤十字・原爆病院内分泌・代謝内科、3)呉医療センター・中国がんセンター臨床検査部、4)札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科、5)札幌医科大学細胞生理学、6)呉医療センター・中国がんセンター内分泌・糖尿病内科
DOI: 10.1016/j.diabres.2026.113192    

他の画像

関連業界