医薬品卸が扱う医薬品は新薬、長期収載品、後発品の三種類。収益構造は、医薬品が人命にかかわる商品である性質に起因して、特殊な構造となっている
医薬品卸が取り扱う商品は、医療機関・調剤薬局向けの医療用医薬品と、ドラッグストア向けの一般用医薬品に分類できる。医療用医薬品は医師の処方箋が必要な一方で、一般用医薬品はドラッグストアでも比較的簡単に購入することができる。流通量としては医療用医薬品9割、一般用医薬品1割といわれ、医療用医薬品のとり扱いが大きい。医療用医薬品はさらに新薬、長期収載品、後発品(ジェネリック)の3種類に分類が可能である。特許切れ前の薬品を新薬といい、特許切れの新薬は長期収載品と呼ばれる。近年では後発品が増えてきているが、これは特許切れの新薬と同じ主成分で圧倒的に安く供給できることから大きくシェアを伸ばしている。
医薬品卸の機能の中核としては営業機能があるが、その機能を担うのがマーケティングスペシャリスト(MS)である。MSは様々な商品の知識を持ち、それぞれを比較提案しながら、販売するスキルを有する。製薬会社の営業担当者であるメディカルレプレゼンタティブ(MR)が医師や薬剤師に対して医薬品情報の提供だけをおこなうのに対して、MSは販売の機能に特化している。近年ではMRの機能を代替するサービスをエムスリーが提供し、医療関係者間で広く普及している。従来、医療機関側はMRからの医療情報収集にあまり重点を置いていなかったにも関わらず製薬企業側はMR関連に多大なコストをかけているという課題があった。エムスリーはこのような課題を解決し、製薬会社の大幅なコストカットを実現しており、2021年時点で医師会員数が30万人(国内医師の約9割)を突破している。
また、医薬品卸の収益構造は特殊である。収益源は大きく医薬品の仕入れと販売の売買差益と製薬会社からのリベート(割り戻し)・アローワンスに分類ができる。製薬メーカーから医薬品卸への販売価格を「仕切価」、医薬品卸から医療機関・調剤薬局への販売価格を「納入価」と言うが、医薬品卸の売買差益は「納入価-仕切価」となる。そのそれぞれの価格の決まり方は、薬価基準制度をベースとした「薬価」の変化に依存する。医療機関・調剤薬局から患者への販売価格を「薬価」というが、これは薬価基準制度により二年に一回の納入価の実績調査に基づいて改訂される。したがって、納入価の維持が薬価の維持に直結することから、メーカーは医薬品卸による納入価の引き下げ防止の為に仕切価を高めに設定することになるが、医薬品卸の売買損益はそれだけだとマイナスになる。その分の補てんをおこなっているのが「リベート(割り戻し)」「アローワンス」の慣習である。リベートはメーカーとの取引量や医療機関・調剤薬局への配送頻度などの諸条件を達成することでメーカーから卸に払い戻される報奨金のことである。またアローワンスは協賛金といわれ、メーカーの販売施策に対応した場合に支払われるものである。このように、売買損益のマイナスをリベート・アローワンスで補てんすることで利益を出しているという特殊な収益構造となっている点が医薬品卸の収益上の特徴である。また、他にも価格に関する慣習として「価格未決定取引」というものがある。医薬品の納入価が未決のまま商品を卸し、後から価格交渉を開始する形態である。これは医薬品が人命にかかわる商品であるということに起因しているが、他業界と比較すると特殊な慣習である。